海外に行くのは5年ぶりだった出不精の増田です。
初国際学会:
第3回Brain Stimulation学会@バンクーバーについて報告したいと思います。

まずは空港の顔パスぶりに驚いた。すごい。あの出国・入国時の
face to faceのやり取りは完全にスキップされて、顔面認証である。それに機内。「さすがANAは液晶の画面が綺麗だけど、このリモコン押しにくいなあ」と手元の昔ながらのリモコンでぽちぽちとやっていたら、降りる直前に実はタッチパネルであったことに気がついて一人赤面していた。


今回は3日間の会期中、初日にポスター発表とオーラル発表という行程。


今回、事前に普通に2本ポスターで演題を出していたのだが、演題提出直後、野田先生の友人の USA Mayo ClinicPaul Croakin先生から突然「希少疾患に対するrTMSのシンポジウムをやるから、そこで話したらどうですか 」と連絡があった。そして初めての国際学会で何も知らなかった私は脊髄反射で「わかりましたがんばります」と返事をしてしまったのであった。


初めての国際学会ゆえに、オーラルで(しかも一般演題ではなくシンポジウム)発表することがどんなことかよくわかっていなかったので安請け合いしたが、周りから「周りは教授ばっかりだよねー」とか「初めてでオーラルってすごいねー」とかしばしば声を掛けられ、なんかやばいことしたかも・・・と思いながら当日を迎えてしまった。


まずはお昼のポスター発表。


初めて見に来てくれた方に嬉しくなって頑張って説明して、名前も聞いて、ドナルドさんか・・いい名前だなあ・・また会えるといいなあと思っていたら、数時間後に同じシンポジウムのシンポジストとして対面した。しかもどこぞやの小児科の教授だった。ドナルドなどと気安く読んで良いものではない。名前くらいチェックしておけばよかった。


そして夕方はそのシンポジウム。


シンポジストを見渡すと、偉そうな人(実際に偉い人)ばかりなので帰ろうかと思ったが、座長のDerrickPaul先生が、大丈夫だよ~と励ましてくれたので、安心してできた。その後もいろんな人が発表見たよーと話しかけてくれたので、やってよかったなと思った。


今回は、私の興味分野であるrTMSASD(自閉スペクトラム症)への応用とそのための神経生理解明というところで、示唆的な情報をたくさん得ることができた。


まずは、”どのように疾患と神経生理をリンクさせるか”、ということ。


RDoCのご時世ということで、バイオマーカーに焦点が集まっているが、精神疾患の枠を崩して症状自体を疾患横断的に評価していくことが望まれている。うつ病患者さんの安静時のfMRIのコネクティビティをクラスタリングして、それぞれのクラスターに応じた症状を検討するという手法の論文(Drysdale et al., 2017, Nature medicine)は会期中に何回も取り上げられていた。


この考え方からいくと、発達障害分野に関しては、もはやASDだからどうとかADHDだからどうとか言っている場合ではないのだと思う。常にオーバーラップの可能性、そして二次障害の可能性、さらには目には見えない内部完結的な症状(タイムスリップ現象や感覚過敏性など)の存在の可能性を念頭において評価しておかないと、解釈を間違うこともある。
その点で、ASD研究のアウトカムは、そもそも「社会性の欠如」「社会的ふるまい」でいいのだろうか?第一に、基本的に社会性の欠如≒環境との不適合であるので、本人だけに問題を帰着するのはあまり客観的な姿勢とは言えないと思う。第二に、社会性の欠如が中核症状とはいうわりに、多くの背景因子を想像せざるを得ない。表情の読み取りが悪いのが問題なのか、感覚過敏すぎてノイズ下で声が聞き取れないのが問題なのか、睡眠障害で眠いのが問題なのか、はたまた二次障害メインで集中力がないのか、、、社会性でくくられてしまうと思考停止に陥るような気もする。
実際のところ、医療者があーだこーだ言っても、当事者の意見を反映したアウトカムを制定していかない限り、rTMSが治療としての地位を勝ち取るのは難しいであろう。多分。知らんけど。(出た関西人!)


そして、”rTMSの刺激ターゲットをどうやって決めていくか”、ということ。


現在は、DLPFCMRIを使ったナビゲーションシステムで同定すると言うやり方がゴールドスタンダードになっている。これに対して、一つ面白いなと思ったポスター発表は、認知タスク中のfMRIを解析して、個人個人に合わせた治療部位を特定すると言う試み。この研究はうつ病が対象だったが、他の疾患にも応用できそうだなと思った。単純すぎるかもしれないけれど、チックの人たちはチックが出ている時の過活動な場所に、ASDなどで感覚過敏のあるひとには感覚刺激の時に異常に反応している場所に介入することで、効果が出るかもしれない。


そもそもどの部位がどの症状を担っているかなんて、安静時の脳活動だけ見ていても、わからない可能性もある。先日の抄読会で、安静時脳波からsalience networkを鑑別することは意味のあることだろうかと議論になった(勝手に私が疑問を呈した)が、同じような理屈に思えてくる。


さらに、上の話とも関係するが、生理指標と症状がリンクしていくことで、「どの症状があればどの場所を刺激すれば良いか」というのが定まっていく可能性も高い。まさにテイラーメイドrTMSの時代が近づいている。


上記のように色々と思いを巡らせることができたばかりでなく、rTMS/TMS-EEG関連で今までよく知らなかったことEEG-trigerd TMS, Deep stimulation, pulse adjustment手法, real time monitoring手法~NIRSを使って~, rTMSはアメリカではMDDOCDに対して保険収載されていること、他疾患への応用、cognitive-training-rTMS, Accelerated rTMS, ASDの患者さんで、rTPJdmPFCに対するrTMSLICIsuicidal behaviorのバイオマーカーになる可能性、Brain stormでの脳波解析、など、など) 

についても、思いを馳せて学ぶ機会となった。

また抄読会などで取り上げていきたいと思う。


スペシャルさんくす
最初から最後までご指導くださった野田先生 

発音・表記を丁寧に教えてくださった宮﨑先生、ムハンマド先生、越智くん

留守の間にrTMSを守ってくれた和田先生、中西さん、三村先生

そしてエールを送ってくださった皆々様、本当にありがとうございました。