抄読会の記録です。

今回取り上げた論文はBaileyらによる
"Responders to rTMS for depression show increased fronto-midline theta and theta connectivity compared to non-responders."
2018年のBrain Stimulation誌に掲載されました。

うつ病の方の中で、rTMSに反応する(rTMSの効果が出る)人たちは、前頭葉中央側のシータ波のパワーと結合性がそうでない人より増加している(健常人に近い)という論文でした。

治療効果の予測は臨床現場において重要な課題です。医療資源が十分でない中、治療の見込みがない人に長期間にわたる治療を慶應大学での研究でも、rTMS治療の前後に脳波を取らせて頂いているので、治療予測の何らかの指標を確立することが可能となるかもしれません。そこで興味を持って読んでみました。


rTMSのうつ病に対する治療応用が進んできているものの、まだ「どのような生理的特徴を持った群に効果があるのか」という部分はよくわかっていませんでした。
今回は、方法うつ病患者さんにrTMSを施行して、ベースライン・1週間後・治療終了後に、ワーキングメモリー課題中の脳波を測定しています。rTMSの効果があった(治療前後でうつ病症状が50%以上改善した)10名と、そうでない 29名における脳波を比較したところ、rTMSの効果があった群の前正中線のシータパワーと結合性は、効果がなかった群よりも優位に増加していることが明らかになりました。しかも、機械学習の手法を用いると、感度と特異度はそれぞれ0.9を超えて、効果の有無を予測することができることが明らかになりました。

私としてはワーキングメモリータスク中の脳波であるというところが非常に面白いなと思いました。これまでの脳波研究では安静時の脳波が用いられることが多く、実際に脳に負荷がかかった時にどのように動くかは、予想するしかなかったのです。この方法なら実際の脳の機能を見ることができます。

しかし、今回の論文は対象者が少ないことや、今回の判別方法を他の集団に適応していないこと、またrTMSのプロトコルが確立されたものでないこと、また脳波の電流源推定の結合性をみているのではなく単純に電極ごとの結合性をみていることなどが、Limitationとして・そしてより工夫できる部分として挙げられます。

なるべく上記の弱点を克服したような結果を作っていけると良いですね。